古より言い伝えられし異形の生物――「鬼」
人の魂を喰らい、人々を恐怖に陥れる脅威の対象。
その邪眼に魅入られし者は、その者もまた「鬼」と化すと云う。
そんな「鬼」を狩るべくこの世に生を受けた存在。
同等の血を分け合った種族でありながら、
同胞である「鬼」を裏切ったもう一つの「鬼」の血族。
彼らの名は――「鬼狩人」
鬼狩人オリジナルアニメ動画
(BGM:Round ZERO〜BLADE BRAVE)
現在連載中の小説
■本編:鬼狩人
■外伝:鬼啖の章
初めてお越しの方は 鬼狩人(1) からご覧ください。
鬼狩人(14)
「佐倉さん!」
ぐったりと倒れたままの由貴を膝の上に抱き起こして、透耶は必死に呼び掛けた。
彼女はまだ無事だと言った鬼の言葉どおり、何度目かの呼び掛けの後に由貴はゆっくりと瞼を持ち上げた。
「トーヤくん……?」
未だはっきりとはしない視界で銀色の瞳を捉えた由貴が、どこか虚ろに透耶を呼ぶ。次第に由貴の瞳の焦点が定まるのを感じ、透耶は深い安堵の息を付いた。
「間に合って良かった……」
胸中で呟いたはずの言葉は、意図せず声になった。
由貴が無事であったこと。自分の力が尽きる前に昴が現れたこと。その全てが詰め込まれた一言だった。
「もう少しだけ待ってて下さい。すぐ終わらせますから」
由貴の無事を確認できた今、鬼狩人として成すべきことは、ただひとつ。
再び瞳に闘志を宿して、透耶は立ち上がった。
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ぐったりと倒れたままの由貴を膝の上に抱き起こして、透耶は必死に呼び掛けた。
彼女はまだ無事だと言った鬼の言葉どおり、何度目かの呼び掛けの後に由貴はゆっくりと瞼を持ち上げた。
「トーヤくん……?」
未だはっきりとはしない視界で銀色の瞳を捉えた由貴が、どこか虚ろに透耶を呼ぶ。次第に由貴の瞳の焦点が定まるのを感じ、透耶は深い安堵の息を付いた。
「間に合って良かった……」
胸中で呟いたはずの言葉は、意図せず声になった。
由貴が無事であったこと。自分の力が尽きる前に昴が現れたこと。その全てが詰め込まれた一言だった。
「もう少しだけ待ってて下さい。すぐ終わらせますから」
由貴の無事を確認できた今、鬼狩人として成すべきことは、ただひとつ。
再び瞳に闘志を宿して、透耶は立ち上がった。
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鬼狩人(13)
自分の足音以外は何も聞こえない廊下を走る透耶に、迷いはなかった。
この学校内の構造を、他校の生徒である透耶が知るはずもない。だが、学校という建物は何処も似たような造りであることが、今の透耶には幸いだった。
自らの感覚と勘に頼って、静かな廊下を駆け抜ける。屋上へと続く階段を見つけると、透耶は全力で駆け上がった。
重い鉄製の扉を、開くのももどかしいと言わんばかりに蹴り開ける。
流れ込んだ生暖かい風を浴びながら、透耶は素早く目を走らせた。
「佐倉さん!」
捜し求めた姿を見つけたとき、透耶は声の限りに叫んでいた。
そう広くはない屋上。ちょうど扉から正面に見えるコンクリートの上に、由貴はぐったりと横たわっていた。
「!!」
由貴の元へ駆け寄ろうとした透耶は、迫る気配を感じて地を蹴った。直後、たった今まで立っていた足元に爆発が起き、固いコンクリートが抉れて弾け飛ぶ。空中で素早く身を反転させると、透耶は右手に具現化した銃の引き金を引いた。
高い銃声の響いた後、銀色の光が薄闇を染める。
やがて光が収まったとき、そこには悠然と佇む鬼の姿があった。
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この学校内の構造を、他校の生徒である透耶が知るはずもない。だが、学校という建物は何処も似たような造りであることが、今の透耶には幸いだった。
自らの感覚と勘に頼って、静かな廊下を駆け抜ける。屋上へと続く階段を見つけると、透耶は全力で駆け上がった。
重い鉄製の扉を、開くのももどかしいと言わんばかりに蹴り開ける。
流れ込んだ生暖かい風を浴びながら、透耶は素早く目を走らせた。
「佐倉さん!」
捜し求めた姿を見つけたとき、透耶は声の限りに叫んでいた。
そう広くはない屋上。ちょうど扉から正面に見えるコンクリートの上に、由貴はぐったりと横たわっていた。
「!!」
由貴の元へ駆け寄ろうとした透耶は、迫る気配を感じて地を蹴った。直後、たった今まで立っていた足元に爆発が起き、固いコンクリートが抉れて弾け飛ぶ。空中で素早く身を反転させると、透耶は右手に具現化した銃の引き金を引いた。
高い銃声の響いた後、銀色の光が薄闇を染める。
やがて光が収まったとき、そこには悠然と佇む鬼の姿があった。
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鬼狩人挿絵集(4〜6)
鬼狩人本編の挿絵イラスト集・第二段!
今回も挿絵イラストと一緒に、各回の裏話などを暴露していきますw
→鬼狩人本編挿絵イラスト集(1〜3)はコチラからドウゾ♪
(※イラストはクリックで大きな画像をご覧頂けます)
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鬼啖の章(12)
8年前の秋―――京都・嵐山の屋敷。
「これ...」
嘉織から渡された包みを開けて、霞は喜びに目を輝かせた。
「誕生日プレゼント、まだ渡してなかったやろ?」
霞は嬉しそうに手元の箱に入っているツゲの櫛を見つめた。
「ありがとう、嘉織兄さん!」
嘉織は目を細めて頷いた。だが、その直後わずかに表情を曇らせた。
「霞...」
「なぁに?」
急に真剣な眼差しになった嘉織に、霞はきょとんと目を丸くした。
「...いや、なんでもない。」
「?...変な嘉織兄さん。」
ふっと笑みを漏らした嘉織につられて霞も笑みを漏らした。
15歳の嘉織と12歳の霞。
家が決めた許婚同士ではあるが、周りから見ても仲睦まじい2人だった。
霞は幼い頃から兄のように慕っていた嘉織に成長するにしたがいそれ以上の感情を抱くようになっていた。
―――霞にとって、嘉織は間違いなく初恋の相手だった。
その嘉織との将来を約束され、まだ12歳ながらも霞は自分の女としての幸せを信じて疑っていなかった。
だが、それはわずか半年後に脆くも崩れ去ることとなる。
中学を卒業すると同時に嘉織は京都樹条家を出て、単身大阪へと移り住んだ。
その真意を語ることも、謝罪や弁明すらすることなく、嘉織は突然霞との婚約も破棄した。
その後、霞は数年に渡って京都樹条家に足を踏み入れることはなかった。
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「これ...」
嘉織から渡された包みを開けて、霞は喜びに目を輝かせた。
「誕生日プレゼント、まだ渡してなかったやろ?」
霞は嬉しそうに手元の箱に入っているツゲの櫛を見つめた。
「ありがとう、嘉織兄さん!」
嘉織は目を細めて頷いた。だが、その直後わずかに表情を曇らせた。
「霞...」
「なぁに?」
急に真剣な眼差しになった嘉織に、霞はきょとんと目を丸くした。
「...いや、なんでもない。」
「?...変な嘉織兄さん。」
ふっと笑みを漏らした嘉織につられて霞も笑みを漏らした。
15歳の嘉織と12歳の霞。
家が決めた許婚同士ではあるが、周りから見ても仲睦まじい2人だった。
霞は幼い頃から兄のように慕っていた嘉織に成長するにしたがいそれ以上の感情を抱くようになっていた。
―――霞にとって、嘉織は間違いなく初恋の相手だった。
その嘉織との将来を約束され、まだ12歳ながらも霞は自分の女としての幸せを信じて疑っていなかった。
だが、それはわずか半年後に脆くも崩れ去ることとなる。
中学を卒業すると同時に嘉織は京都樹条家を出て、単身大阪へと移り住んだ。
その真意を語ることも、謝罪や弁明すらすることなく、嘉織は突然霞との婚約も破棄した。
その後、霞は数年に渡って京都樹条家に足を踏み入れることはなかった。
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鬼狩人(12)
「…………?」
ガードレールに体を預けるように佇んでいた透耶が、ふと目を上げた。
今、彼は昴や由貴たちが通う高校の傍にいる。
昨日の一件が気になっていた透耶は、授業が終わるのももどかしく学校を飛び出していた。
確か、今日は透耶の方が一時限分ほど授業が少ないはずだった。だから学校の傍で待っていれば、昴か由貴か、或いは両方に会えるだろうと思っていたのだが、待てど暮らせど彼らは現れない。
いい加減に昴を怒鳴りつけてやろうかと、携帯電話を取り出した矢先のことだった。
透耶の左手首がズキリと鋭い痛みを訴えた。
咄嗟に右手で抑え込んで痛みに耐える。
(何だ……?)
深く抉れた傷痕が消えることは二度とないであろうが、こんな風に鋭い痛みを感じるなど今までなかったことだ。
視線を上げて、高い影を落とす校舎を見る。
「冗談だろ……っ!」
瞬間、灰色の瞳が見開かれた。
とっくに放課後と呼べる時間帯になっているグラウンドには、いつもならば部活動に励む生徒たちの声が響き渡っているはずだった。楽しそうにお喋りをしながら下校する生徒だって少なくはないはずだ。
だが、今、透耶の目に映っているのは、しんと静まり返った校内。
それが異変であると気付くのは、彼にとって容易なことだった。
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ガードレールに体を預けるように佇んでいた透耶が、ふと目を上げた。
今、彼は昴や由貴たちが通う高校の傍にいる。
昨日の一件が気になっていた透耶は、授業が終わるのももどかしく学校を飛び出していた。
確か、今日は透耶の方が一時限分ほど授業が少ないはずだった。だから学校の傍で待っていれば、昴か由貴か、或いは両方に会えるだろうと思っていたのだが、待てど暮らせど彼らは現れない。
いい加減に昴を怒鳴りつけてやろうかと、携帯電話を取り出した矢先のことだった。
透耶の左手首がズキリと鋭い痛みを訴えた。
咄嗟に右手で抑え込んで痛みに耐える。
(何だ……?)
深く抉れた傷痕が消えることは二度とないであろうが、こんな風に鋭い痛みを感じるなど今までなかったことだ。
視線を上げて、高い影を落とす校舎を見る。
「冗談だろ……っ!」
瞬間、灰色の瞳が見開かれた。
とっくに放課後と呼べる時間帯になっているグラウンドには、いつもならば部活動に励む生徒たちの声が響き渡っているはずだった。楽しそうにお喋りをしながら下校する生徒だって少なくはないはずだ。
だが、今、透耶の目に映っているのは、しんと静まり返った校内。
それが異変であると気付くのは、彼にとって容易なことだった。
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鬼啖の章(11)
(―――ここは、どこだ?)
たゆたう水面に身体を浮かべているような感覚の中、夜壱はゆっくりと覚醒した。
辺りは闇に覆われている。
身体を動かそうにも、まるで全神経が途切れてしまったかのように指一本動かすことも出来ない。
やがて目の前に、曇った鏡のように不透明な視界が開けた。
『朝雄様。』
何重にも膜を張ったかのような声が聞こえる。
『...残党は見つかったか?』
夜壱はその声に聞き覚えがあった。
紀朝雄―――夜壱がさきほどまで戦っていた男の声だ。
『それが、未だに発見できず...』
『藤原千方の首も持ち去られたままでは申し開きがたたん!なんとしても探し出せ!』
夜壱は千方の名を聞いて怒りを思い出した。
酷く身近にいるはずの紀朝雄の姿を探そうとするが、視界は未だ不透明で、それどころか夜壱の意志によって辺りを見回すことも出来ない。
何かが、おかしい。夜壱はゆっくりと記憶を手繰り寄せた。
紀朝雄と戦い、胸を深く貫かれ―――その後、最後の力を振り絞って奴の腕を掴んだところまでは覚えている。
その後、一体自分はどうなってしまったのか?
『くそっ...あの鬼喰鬼め。一体何の術を使ったのだ?!喉が焼け付くように乾く...!』
荒々しく傍にあった酒瓶を手繰り寄せ、それを夜壱自身が飲んでいるかのような映像が見える。
まるで夜壱が紀朝雄自身のような―――
『あの男...死ぬ間際に何か気のようなものを私にぶつけてきたが。この喉の渇きはそれが原因か?』
ようやく、夜壱は自分の身に何が起こったのかを理解した。
自分でもどうやったのかわからないが、最後の力を全て紀朝雄にぶつけようとした結果、夜壱の意識――おそらく魂は紀朝雄の身体に宿ったのだ。
『...まぁいい。残党を片付けて京へ戻れば少しは気も晴れるだろう。』
酒を飲み干し満足そうにそう言う紀朝雄に、夜壱は再び怒りを顕わにした。
遺してきた香澄や陽蝉たちだけは、守り抜きたい。そのためにはこの男をどうにかしなければ―――
『―――っ?!なんだ?手が...!』
紀朝雄は突然自分の手が動かなくなり、動揺した。
夜壱は紀朝雄の心の動きが手にとるようにわかった。
紀朝雄の中にいるということは、その身体を思うように動かすことも可能なのではないか?
夜壱は、わずかに残された可能性にかけようと思った。
もはや自分の身体に戻ることは叶わないだろう。だが、香澄たちを守るため、まだ自分に出来ることがあるのなら―――
(力が、足りぬ...)
全ての力を使い切ることにより紀朝雄の身体に入り込んだ今の夜壱は、元の何十分の一の力も無かった。
もっと自由に紀朝雄の身体を使うためには―――力を蓄えなければならない。
力を蓄えるためには、鬼の魂を喰らわねばならない。
(―――鬼の魂を、喰らえ。)
夜壱は紀朝雄の中で、念じるように呟いた。
その言葉は、まるで呪いのようだったかもしれない。
そしてその後―――鬼の間では京に再び鬼喰鬼が現れたという噂が広がった。
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鬼狩人(11)
その日、由貴が学校に着いたのは二時限目と三時限目の間の休み時間だった。
教室に行く前に職員室に寄って担任教師に告げた「具合が悪かった」という遅刻の理由は決して嘘ではない。けれど、それが全てではないことに由貴は自分で気付いていた。
昴が去っていくのを見送ってから、由貴が歩き出せるまでには相当の時間が必要だった。バスの中で感じた吐き気や眩暈は治まっていたが、代わり重苦しく圧し掛かる感情が由貴の心を支配した。
昴の背中から感じたのは、明らかな拒絶だった。
昨日から何となく感じていたことを、はっきりと思い知らせるような昴の態度に、由貴はどうして良いのか分からなくなっていた。
強引に引き止めれば良かったのだろうか。
追い縋って叫べば良かったのだろうか。
忘れることなんて出来ない、忘れたくない。
あなたのことが好きです、と――。
だが、もはやそれは叶わない。
何も言わずに立ち去った昴との間には、埋めようのない距離を感じた。もう二度と逢えないのではないかとさえ思ってしまう。
教科書の文章を読み上げる教師の声を何処か遠くに感じながら、由貴は握り締めていた手を開いた。そこには去り際に放り投げられた昴の名札。彫り込まれた「樹条」という文字を指でなぞると、由貴は目の奥がジンと熱くなるのを感じた。
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教室に行く前に職員室に寄って担任教師に告げた「具合が悪かった」という遅刻の理由は決して嘘ではない。けれど、それが全てではないことに由貴は自分で気付いていた。
昴が去っていくのを見送ってから、由貴が歩き出せるまでには相当の時間が必要だった。バスの中で感じた吐き気や眩暈は治まっていたが、代わり重苦しく圧し掛かる感情が由貴の心を支配した。
昴の背中から感じたのは、明らかな拒絶だった。
昨日から何となく感じていたことを、はっきりと思い知らせるような昴の態度に、由貴はどうして良いのか分からなくなっていた。
強引に引き止めれば良かったのだろうか。
追い縋って叫べば良かったのだろうか。
忘れることなんて出来ない、忘れたくない。
あなたのことが好きです、と――。
だが、もはやそれは叶わない。
何も言わずに立ち去った昴との間には、埋めようのない距離を感じた。もう二度と逢えないのではないかとさえ思ってしまう。
教科書の文章を読み上げる教師の声を何処か遠くに感じながら、由貴は握り締めていた手を開いた。そこには去り際に放り投げられた昴の名札。彫り込まれた「樹条」という文字を指でなぞると、由貴は目の奥がジンと熱くなるのを感じた。
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鬼啖の章(10)
周りには何人もの鬼の体が横たわっていた。
壮絶な戦いの末傷を負った夜壱は荒い息を吐いてその場に膝をついた。
神経が極限まで研ぎ澄まされた夜壱は、まだ生き残りがこの場にいるということを感じ取った。
「誰だ?」
夜壱はなんとか立ち上がり、一点を見つめた。
暗闇からゆっくりと姿を現したのは、位の高い人間の身なりをした1人の男だった。
「...鬼喰鬼の噂は聞いていたが、まさかこれほどの力とはな。」
「お前、は...?」
普通の人間ならば、この惨状を目の当たりにすれば逃げ出すところだろう。
だが、男は多くの鬼の死体と夜壱を見ても眉ひとつ動かさず、口元にはうっすらと笑みさえ浮かべていた。
「私は紀朝雄。官軍の指揮を仰せつかった者だ。」
「キノ、トモオ...!」
その名を聞いて、夜壱はザワっと全身の肌が泡立った。
千方に矢を射った者の名だ。
隠そうともせず自分に向けて放つ異質な気に、夜壱は紀朝雄と名乗った男の正体を見抜いた。
「お前...人間ではないな?」
夜壱の問いかけに、紀朝雄はおかしそうに声を漏らして笑った。
「フフっ...まさか鬼が人間の、朝廷の中に紛れ込んでいるとは夢にも思うまい?」
その言葉に、夜壱は全てを悟った。
朝廷軍に組した多くの鬼の存在。それはこの男が仕組んだことだったのだ。
「何故、そんなことを...一体何を企んでいる?!」
普通、鬼は単独行動を好む。中にはより力の強い者に惹かれそれに付き従う鬼もいるが、人間が組織した朝廷内に紛れ込むなど論外だ。
「この世は我等鬼よりも人間の数のほうが圧倒的に多い。その人間らが自ら作り出した規則でこの大陸を支配し始めた。私は、人間より秀でた自らの力を使い、人間たちを支配しようと考えたのだ。」
「そんなことが...」
出来るはずがない、と言おうとした夜壱の言葉を紀朝雄は遮った。
「紛れ込んでしまえば人間としての生活もそう難くないことは、お前も身をもって知っているだろう?」
「...っ」
紀朝雄の言ったことは正しかった。
確かに、自分の正体を悟られない限り人間の中で生きていくことは簡単だった。
それどころか、夜壱にとっては同族に紛れて生きていくよりも心安らかで居られた。
「人間の頂点に立ち、鬼の一族が狩りをしやすい世界を築く。私になら、それが出来る。だが―――」
紀朝雄の両目が怪しく金色の輝きを放った。
「同族の魂しか喰らわぬ鬼喰鬼は、私の創る世界には必要ない!」
手に気を纏い一振りの刀と化して、紀朝雄は夜壱に斬りかかった。
もはや握力もわずかしか残っていない手で刀の柄を握り締め、夜壱はその攻撃を受け止めようとした。
だが、夜壱の刀はもろく真っ二つに折れて地面に突き刺さった。
紀朝雄の腕は真っ直ぐに夜壱の胴体を貫いた。
夜壱は苦悶の表情を浮かべ、次の瞬間大量の血を口から吐き出した。
「安心しろ。お前の仲間もすぐにそちらへ送ってやる。」
紀朝雄のその言葉に、夜壱は最後の力を振り絞って自分の胸を貫く腕を掴んだ。
「そんなことはさせん!我の命かけて、絶対にな...っ!」
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壮絶な戦いの末傷を負った夜壱は荒い息を吐いてその場に膝をついた。
神経が極限まで研ぎ澄まされた夜壱は、まだ生き残りがこの場にいるということを感じ取った。
「誰だ?」
夜壱はなんとか立ち上がり、一点を見つめた。
暗闇からゆっくりと姿を現したのは、位の高い人間の身なりをした1人の男だった。
「...鬼喰鬼の噂は聞いていたが、まさかこれほどの力とはな。」
「お前、は...?」
普通の人間ならば、この惨状を目の当たりにすれば逃げ出すところだろう。
だが、男は多くの鬼の死体と夜壱を見ても眉ひとつ動かさず、口元にはうっすらと笑みさえ浮かべていた。
「私は紀朝雄。官軍の指揮を仰せつかった者だ。」
「キノ、トモオ...!」
その名を聞いて、夜壱はザワっと全身の肌が泡立った。
千方に矢を射った者の名だ。
隠そうともせず自分に向けて放つ異質な気に、夜壱は紀朝雄と名乗った男の正体を見抜いた。
「お前...人間ではないな?」
夜壱の問いかけに、紀朝雄はおかしそうに声を漏らして笑った。
「フフっ...まさか鬼が人間の、朝廷の中に紛れ込んでいるとは夢にも思うまい?」
その言葉に、夜壱は全てを悟った。
朝廷軍に組した多くの鬼の存在。それはこの男が仕組んだことだったのだ。
「何故、そんなことを...一体何を企んでいる?!」
普通、鬼は単独行動を好む。中にはより力の強い者に惹かれそれに付き従う鬼もいるが、人間が組織した朝廷内に紛れ込むなど論外だ。
「この世は我等鬼よりも人間の数のほうが圧倒的に多い。その人間らが自ら作り出した規則でこの大陸を支配し始めた。私は、人間より秀でた自らの力を使い、人間たちを支配しようと考えたのだ。」
「そんなことが...」
出来るはずがない、と言おうとした夜壱の言葉を紀朝雄は遮った。
「紛れ込んでしまえば人間としての生活もそう難くないことは、お前も身をもって知っているだろう?」
「...っ」
紀朝雄の言ったことは正しかった。
確かに、自分の正体を悟られない限り人間の中で生きていくことは簡単だった。
それどころか、夜壱にとっては同族に紛れて生きていくよりも心安らかで居られた。
「人間の頂点に立ち、鬼の一族が狩りをしやすい世界を築く。私になら、それが出来る。だが―――」
紀朝雄の両目が怪しく金色の輝きを放った。
「同族の魂しか喰らわぬ鬼喰鬼は、私の創る世界には必要ない!」
手に気を纏い一振りの刀と化して、紀朝雄は夜壱に斬りかかった。
もはや握力もわずかしか残っていない手で刀の柄を握り締め、夜壱はその攻撃を受け止めようとした。
だが、夜壱の刀はもろく真っ二つに折れて地面に突き刺さった。
紀朝雄の腕は真っ直ぐに夜壱の胴体を貫いた。
夜壱は苦悶の表情を浮かべ、次の瞬間大量の血を口から吐き出した。
「安心しろ。お前の仲間もすぐにそちらへ送ってやる。」
紀朝雄のその言葉に、夜壱は最後の力を振り絞って自分の胸を貫く腕を掴んだ。
「そんなことはさせん!我の命かけて、絶対にな...っ!」
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